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音楽の印税インフラは何のためにあるのか

小さな曲のアーティストに支払うコストが、いまではその曲の稼ぎを上回っている。ほかの分野では、企業がお金を動かす仕事を競い合わなければならなかったところで、お金を動かすことは安くなった。音楽の支払いを担う層では、競争している者がほとんどいない。

Brian Li

· 10分で読めます

年に900回再生される曲を思い浮かべてほしい。ヒット曲ではないが、聴いている人はいる。2024年4月までは、この曲の録音もSpotifyでわずかながらお金を稼いでいた。いまは何も稼がない。Spotifyが、直近12か月の再生が1,000回に満たない曲には録音の印税を支払わないことにして、その分を基準を超えた曲に回すようにしたからだ。(ソングライターに入る小さいほうの取り分は、いまも支払われている。)

Spotifyの挙げた理由は、じっくり読む価値がある。レーベルやディストリビューターはたいてい、アーティストが出金できるまでに2ドル(約316円)〜50ドル(約7,900円)をためさせ、銀行は送金に1ドル(約158円)〜20ドル(約3,160円)を取る。だから月に数セントしか稼がない曲では、「このお金はアップロードした人に届かないことが多い」。Spotifyは、こうして滞っているお金を年に約4,000万ドル(約63億2,000万円)と見積もった。その対策は、支払いのコストを下げることではなかった。支払うのをやめたのだ。

Spotifyが使える仕組みを前提にすれば、これは筋の通った判断だ。だが、それが意味することに目を向けてほしい。あの曲のアーティストに支払うコストは、曲が稼ぐ額より大きい、ということだ。情報やお金を動かすことがほとんど何でも安くなったいまも、なぜそれが変わらないのか。この記事はその話だ。

ほかはすべて安くなった

1844年、400マイルを超えて手紙を送ると25セントかかった。いまのお金で約8.64ドルだ。WhatsAppのメッセージは、データ通信料のほかには何もかからない。外国から母国へ200ドル(約3.2万円)を送る手数料は、世界銀行が2008年に計測を始めたときには10%近く、2025年には約6%だった。世界銀行は、その下落の一部を新しいデジタルの送金事業者のおかげだとしている。

技術が進歩して、こうしたことをするコストは下がった。それを買う値段を下げたのは、主に競争だったと私たちは考えている。競争がないところでは、価格は何十年も動かないことがある。日本では40年以上にわたって、どの銀行も、他行との間の振込1件ごとに、相手の銀行に同じ手数料、117円か162円を払っていた。あるエコノミストは、受け取る側の銀行の実際のコストを約44円としている。この手数料が2021年に62円へ下がったのは、公正取引委員会が報告書で取り上げ、政府が乗り出してからだった。

音楽には、この話の両面がある。曲をリスナーに届ける部分、つまりデータを動かし保存することは、同じ年月のあいだにはるかに安くなった。安くならなかったのは、曲の代金を支払う部分だ。

簡単な3つの仕事を、ゆっくりと

突き詰めれば、音楽への支払いは3つの仕事だ。ファンがしたことを記録する。誰にいくら払うべきかを計算する。そして決済する、つまり実際に支払う。どれも、いまのコンピューターにとって難しいことではない。

記録はすでに速い。Spotify for Artistsは再生回数を毎日更新し、新しいリリースの最初の1週間は2秒ごとに更新する。お金は別の時計で動いている。ストアはふつう、1か月分の売上を2か月後に報告するので、1月の再生は3月に支払われる。ソングライターの側はもっと遅い。BMIは、ある四半期の収入を、その四半期が終わってから3か月半から5か月半後に支払う。曲が海外で演奏された場合、お金の大半が届くのは「演奏から1年から2年後」だ。

900回再生の曲のお金も、本来ならこの道をたどるはずだった。何か月もかけていくつもの会社を通り、そのどれもが独自の最低額と手数料とカレンダーを持っている。少額のお金が滞っていたのは、計算が高くつくからではない。この道のりのせいだ。

支払いの層では、誰も競争しなくていい

ここが、音楽とメッセージや送金との違いだ。印税を集めて支払う会社のほとんどは、仕事を勝ち取る必要がない。

米国では、Mechanical Licensing Collective(MLC)が、ストリーミングにかかる2つの作詞・作曲の印税のうち、曲の複製に対する印税を扱う、法律で設けられた唯一の団体だ。曲が演奏されることへの印税は主にASCAPとBMIを通り、そのルールは米司法省との1941年の和解にさかのぼる。世界全体では、228の著作権管理団体がそれぞれ自分の地域でライセンスを出し、互いにお金を渡し合っている。さらに、著作権を持っているのはレーベルと出版社なので、お金は彼らの会計も通る。どの立場も、法律か所有から生まれたものだ。もっと安くすることで毎年勝ち取り直さなければならない立場は、ひとつもない。

競争がないことは、コストにも表れている。カナダのSOCANは、徴収した額の13.4%を自らの運営に使っている。

日本は、わかりやすい手を試した。競合を入れることだ。日本音楽著作権協会(JASRAC)は1939年から、2001年の法律が市場を開くまで、楽曲の著作権使用料を徴収できる唯一の団体だった。2009年に公正取引委員会が、JASRACの放送事業者向けの許諾が「競争を実質的に制限している」と認定すると、この件は2つの裁判所を経て7年半続き、最後はJASRACが争うのをやめた。いまも主な競合のNexToneはずっと小さく、ストリーミングで両者が取る手数料は同じ9.5%だ。同じ種類の徴収者が増えても、徴収は安くならなかった。

お金を持つ者が、それで稼ぐ

時は金なり。支払いの仕組みに待ち時間が組み込まれているなら、待っている間のお金で、おそらく誰かが稼いでいる。

いちばんわかりやすい例はMLCだ。納税申告書が公開されているからだ。2024年末、MLCは14億ドル(約2,210億円)の証券を持っていて、そのほぼすべてが他人に支払われるべきお金だった。その年、MLCは7,230万ドル(約114億円)の投資収益を報告した。収入の約65%にあたる額で、これに対して権利者に支払うべき利息は4,450万ドル(約70億3,000万円)だった。MLCは米国著作権局に、支払うべき利率を超える運用益は準備金として残していると説明している。ルールの範囲内のことだ。だが、そのお金の持ち主であるソングライターたちは、運用先を選んでいないし、見ることもできないし、お金がいつ戻るかも決められない。今年の6月には著作権局が、MLCは財務アドバイザーも、投資しているファンドも、その額も公表していないと指摘した。

私たちは、誰かがわざと支払いを遅らせているとは思っていない。待ち時間の一部は、内側から見れば避けられないようにさえ見える。誰も登録していない曲と再生を照合する作業がそうだ。私たちはそれを設計の失敗と呼ぶ。システムが、曲の持ち主を知る前にその曲のお金を受け取っているからだ。いずれにしても、インセンティブははっきりしている。待っているお金は、それを持っている者のために稼ぐ。だから、お金を持っている誰にも、待ち時間を短くする理由はあまりない。

理由はもうひとつあって、こちらは構造の問題だ。流れの中の会社は、どれも自分の帳簿をつけている。お金はストリーミングサービスの帳簿から、ディストリビューターや管理団体の帳簿へ、さらに出版社の帳簿へと移る。受け渡しのたびに、ある会社が期間を締め、次の会社がそれを照合するのを待つ。明日どこか1社が速くなっても、お金は次の会社で待つだけだ。

そこでアーティストには、速い仕組みの代わりに、待ち時間が売られる。印税のアドバンス(前払金)は、自分の将来の稼ぎを、取り分を引いたうえでいま払ってもらうものだ。Amuseだけでも5万件を超えるアドバンスを実行していて、1回を返し終えたアーティストの半数以上がまた次を受け、平均で少なくとも4回になる。アドバンスを売る会社のうち、いくつかはディストリビューターで、すでに自分のところを通っている印税から返済を受ける。アドバンスは、現金が必要なアーティストの助けになる。だが、遅れを売る事業がまるごと存在していて、そのどれも遅れを短くはしない。

なぜ誰も先に動かないのか

誰が何を持ち、誰にもう支払ったかを記録した共有の台帳ひとつに、すべての会社が移れば、どの会社も互いの照合にかけるコストが減る。ではなぜ、そうならないのか。

ゲーム理論には、この状況を表す名前がある。鹿狩りゲーム(スタグハント)だ。狩人たちは、全員が持ち場を守ったときにだけ鹿を仕留められるが、ウサギならひとりでも捕まえられる。ほかの全員を当てにするのは危ないので、狩人はそれぞれウサギを追い、誰も悪いことをしていないのに、全体としては損をする。音楽では、動かないことがウサギだ。ほかがどうしようと、どの会社も自分の立場と、移動中のお金から得る利息を守れる。(遅い仕組みのほうが実際に得をしている会社もあるので、鹿はなおさら魅力がない。)

抜け出す道は、いちばん得をする人たちが、ほかを待たずに始めることだ。Spotifyによれば、インディーのアーティストとレーベルは、2024年にSpotifyで50億ドル(約7,900億円)を超える額を稼いだ。Spotifyの印税の約半分だ。そして彼らは、別のやり方で支払いを受けるのに、どの機関の許可もいらない。

私たちがつくったもの

Misoは、人にお金を支払う部分に競争を持ちこもうとする、私たちの試みだ。Suiのブロックチェーンの主要な公開ネットワークであるSui Mainnetで稼働していて、Miso Recordの販売もその上で動いている。

Misoでは、3つの仕事はこうなる。楽曲と録音を誰が持ち、各トラックのお金をどう配分するかは、誰かが支払う前に記録され、あとから書き換えることはできない。ファンは世界のどこからでも、リリースに直接支払う。そこからお金は、誰でも始められる段階を踏んで動くが、配分で決まった行き先にしか行けない。持ち主はそれぞれ、自分の取り分を好きなときに受け取る。1回の支払いで全員に一度に支払われるわけではない。それでも、ほかの会社の帳簿が締まるのを待つ人はいない。帳簿はひとつしかないからだ。

Misoは当事者が合意した配分を強制するが、誰がその曲を書いたかは決めない。税金や、ふつうの銀行のお金との両替は、いまもMisoの外で行われる。Miso Streamingは開発中で、初期のプロトタイプは、この設計が機能することを示している。

誰でもその上にサービスをつくれるので、ストアやプレイヤーは、良いストアやプレイヤーであることで競うしかない。アーティストが明日別のストアで売り始めても、お金は同じ配分のもとで、同じリリースに届く。競争があるべきなのはそこだと、私たちは考えている。

900回再生の曲に戻ろう。そのアーティストに数セントを払うのに、数セントより高いコストがかかるべきではない。ほかの分野では、誰かがお金を動かす仕事を競って取らなければならなかったところで、そのコストが下がった。音楽の支払いの層には、技術はもうそろっている。欠けているのは、競争しなければならない誰かだ。

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